わたしはここにいるよ

インターネットの片隅で愛を叫ぶ

【第八章】元夫「勇気」との日々。わたしの学んだ、あなたの「勇気」

「まじ卍」をはじめとした意味わかんない言葉を使う宇宙人のお前ら!元気してるか!我が名はヘタレ指揮者監督オナニストサイボーグ!葉月ひろなです。こんにちは。わたし、本当に男顔なのです。わたしが赤ちゃんの頃かな?幼稚園ぐらいの時かな?7歳年上の兄は友達に「お前の妹、オス?メス?」と言われたぐらい、わたしの顔は男顔なのです。人間だっつの。そして思春期の頃に両親にも「お前の顔は、中の下だな」と言われていた女なのです。だからわたし自分のことブスだってずっと思っていたの。でもなぜか高校生の頃からつきあう男性には「かわいい」って何回も言われていて。でも家庭内では「ブス」で。周りの評価がちっとも一致しないから、わたし自分の顔がどんな顔なのかわからないの。でも昨年、この方に似ていると言われた上で若い年下の男性にナンパの末に告白されたことを思い出しまして。


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何この美人。AKBのぱるるさん。今は卒業されたのでしょうか?自宅にテレビを置いていないわたしはひたすら世間の動きや芸能界に疎くて、しかもわからないことをすぐググる、という癖があまりないので、この方に似ていると言われてもググることすらなかったの。ただ、確かに、マスカラを3度塗りしたり、マツエクをたくさん本数つけるとこんな顔になる気はします。ん?この方が美人なのは理解出来るのに、そんな方に似ているわたしも美人!とは思えない。ひたすら自己肯定感低いですね、わたし。ですがこんな美人に似ているらしいわたしが書くノンフィクション連載だったら読みたくなるでしょうか?今までした「ブログなんてオナニー」とか「見られると興奮する」とかの発言も許されるのでしょうか。別に許されなくても言い続けますけども!

 

そんなAKBのぱるるではなくBBAのぱるるが監督のノンフィクション連載はこちらだよ。今日も続き更新しますね!今日もかなり大事な場面だから、特に葉月ひろな(22)と岩本勇気(26)!心して演じなさい!

 

はじめての方はこちらから。

【第一章】元夫「勇気」との日々。わたしの学んだ、あなたの「勇気」 - わたしはここにいるよ

【第二章】元夫「勇気」との日々。わたしの学んだ、あなたの「勇気」 - わたしはここにいるよ

【第三章】元夫「勇気」との日々。わたしの学んだ、あなたの「勇気」 - わたしはここにいるよ

【第四章】元夫「勇気」との日々。わたしの学んだ、あなたの「勇気」 - わたしはここにいるよ

【第五章】元夫「勇気」との日々。わたしの学んだ、あなたの「勇気」 - わたしはここにいるよ

【第六章】元夫「勇気」との日々。わたしの学んだ、あなたの「勇気」 - わたしはここにいるよ

【第6.5章】元夫「勇気」との日々。わたしの学んだ、あなたの「勇気」 - わたしはここにいるよ

【第七章】元夫「勇気」との日々。わたしの学んだ、あなたの「勇気」 - わたしはここにいるよ

↑サイボーグになった詳細とそのサイボーグによるオナニー。途中「このエピソード要るん?」っていうのもありますが、なにもかもこの連載には欠かせないエピソードです。【第6.5章】では岩本勇気さんをはじめとした登場人物の外見やスペックをお話しています。

 

あなたと、もうひとつの「はじめて」を。

忘れられない2007年4月27日。キスから始まったふたりのストーリー。そんな、わたしと勇気さんが恋人になった日の翌朝。今日は、勇気さんの家に行く。昨日「明日はどこで会う?」とのメールに「勇ちゃんの家がいい」と返した。勇気さんは一人暮らしだし、誰に気を使うことなく、ふたりきりでたくさんおしゃべりしたいんだ。

 

「おはよう(^^)」

そうメールを勇気さんに送ったら、数分後にこう返ってきました。

「今、掃除めっちゃがんばってるよ!」

 

掃除?そんなんしなくていいよ。てか、一人暮らしって、あまり部屋汚れなくない?わたしも一人暮らししてたけど、あまり部屋が汚れた記憶がない。仕事や遊びに明け暮れてそんなに家にいなかったからかもだけど、一人暮らしの時に掃除をめっちゃがんばった記憶がない。それでもあまり汚れなかったけどな?そんな風に思いながら、身支度を整えました。今日は三つ編みにして、ジーナシスの白いトップスと、深いグリーンのショーパンにしようっと。靴はぺたんこのサンダル!

 

身支度を終えて、実家から近くの地下鉄の駅に向かいました。今日は水色の自転車には乗りません。勇気さんの家は、この街の都心部の駅から、電車に乗るのです。JRではない。おそらくこの九州に昔からある私鉄なのでしょう。はじめて乗るけど、自分には馴染みの深い電車での移動だから、緊張はしません。バスに比べたら、だいたい定刻どおりに着けるから。

 

地下鉄で都心部に着いて、途中でミスドに寄って、ドーナツをふたり分買いました。朝だからな…………甘いものより、しょっぱいのがいいかな。わたしは、朝にあまり甘いものを食べたことがなかったのです。朝は必ず、寝ている間に汗をかいたから塩分補給、と言わんばかりの、しょっぱい朝食が当たり前でした。バターを塗ったトーストとお醤油をかけた目玉焼き、とか、白米とお味噌汁とか。デザートに少し果物を食べるぐらい。そんなしょっぱい朝食が当たり前だったわたしは、朝は甘いものよりしょっぱいものがいいと思いこんでいたのです。昨日勇気さんが、ミスドで甘いドーナツを選んでいたことも忘れて。そしてドーナツ………というか、ウインナーのパイや、目玉焼きの乗ったパイを抱えながら、私鉄に乗り換えました。そこから数駅の、勇気さんの住む街は、駅前に大きな広場があって、鳩がたくさんいました。今日も晴れてる。この九州は、春でもあまり風が強くない。わたしはそれまで、春は風が強い季節、と思っていました。春一番をはじめ、いつも風が強い。主に関東平野に住んでいたからかもしれません。こんなに過ごしやすい季節なのに、風が強いのが本当に嫌で。前髪命だし。でも、この九州は、気温は高いけれど。春が、とてもおだやかだ。

 

「着いたよ」

 

そうメールをしたら、駅前まで迎えに来てくれました。次に行く仕事が静岡だから、今はしばらく休みらしい勇気さん。その間に、出来るだけたくさん一緒にいたいな。そう思っていました。昨日と同じ、やさしい笑顔で迎えに来てくれました。わたしたちは、昨日のラウンドワンを出たところから、当たり前のように手を繋いでいました。どちらともなく。言葉にすることもなく。わたしたちが、手を繋ぐのは、当たり前だよね。そんな空気の中で、どちらともなく、まるでシナリオ通り、と言わんばかりの自然な手の繋ぎ方をしていました。

 

「迷わなかった?すぐわかった?」

「うん、バスより電車の方がわかりやすい」

 

そうしてふたりで手を繋ぎながら、勇気さんの家に向かいました。その勇気さんの一人暮らしをするマンションは、駅から徒歩で3分もない。1分ぐらいかも。しかもオートロック。あまり新しいマンションではないけど、その頃はオートロックが今ほど当たり前ではありませんでした。わたしも一人暮らしをしたことがある新築のアパートやコーポは、オートロックではありませんでした。しかも1階に、コインランドリーがあるのです。もちろんお金を機械に入れなければ使えませんが、とても設備の整ったマンションでした。

 

「何階なの?」

「3階だよー」

 

そう言う勇気さんと一緒にエレベーターに乗りました。3階なら、階段でも大丈夫なんだけどな………そう思いながら、3階についてエレベーターの扉が開いたら、なんだかいい匂いがするのです。なんだろう、なんの香りだろう………まるで外国のような、ほんのり甘い、とてもいい香り。

 

「ここ」

 

そう言って、勇気さんが家の鍵をあけました。そして玄関の扉があけられて。この3階に来てから漂っていた、甘いのだけど、甘ったるくない、とてもさわかな香りが鼻いっぱいに広がって。「どうぞ」と言われて、「おじゃまします」と玄関に入り、靴を脱いで揃えてから、小さなキッチンを通り過ぎて、のれんをくぐってそのワンルームの部屋に入ったら、とっても素敵なインテリアで。黒いふかふかのカーペット。ダーツの的。ビリヤードのオブジェ。ボーリングのピン。女性のマネキンのようなものに男物のガールズTが着せられていて。おそらくマンションに最初から備えつけのベッドは壁に一体化する形で収納されていて。白いソファもあって、カーテンは生活感を感じさせない、深いネイビーブルーの遮光カーテン。大きなブラウン管テレビもレンガ模様にデコレーションされていて、大きなスピーカーがある。低音のよく響く、ホームシアターと言うのだと後に教えてくれました。他にもたくさんインテリアがあって、アロマキャンドルや、写真の入っていない写真立てがありました。その中に大きなドラえもんのぬいぐるみと、わたしの身長の半分はあるムーミンのニョロニョロの抱きまくらがありました。その中で、お香が焚かれていて。まるでおしゃれなカフェのような、BGMが流れていました。

 

「すごい………すっごい落ち着く」

 

はじめて来たのに、一瞬で落ち着きました。こんなに落ち着く部屋は、生まれてはじめてで。あまりに素敵なインテリアに、惚れ惚れしていました。わたしはあまり、自分の家以外に行った時に、その家の経済状況、というものを気にしたことがありませんでした。わたし自身は確かに裕福な家庭で育ちましたが、実家はあまりインテリアに凝る家庭ではなかったし、とにかく物が少なかったのです。今ではミニマリストと呼ばれるのかもしれませんが、とにかく生活に必要のないものはひたすら買わないし、使わなくなったらすぐ捨てる家庭でした。そしてわたしの周りの友達や恋人の家で、経済状況を気にして家の中を見ていませんでした。もちろんわたしの育った家庭のような裕福なご家庭が多かった、というのもあったかもしれませんが、それでも今思えば、生活保護のご家庭だったのだろうなという友達もいたし、母子家庭もいました。わたしは主にマンションで育ちましたが、古いアパートのご家庭もあったし、大きな一軒家の方もいたし、県営住宅の方もいました。インターホンのないご家庭もあった。だからといって、経済状況で相手のご家庭を判断することは一度もありません。だって、わたしの友達だから。わたしの好きになった恋人だから。そこに経済状況は関係ない。兄が結婚をする時にお相手のご両親に挨拶に行った時に「うちと変わらない感じの経済状況みたいだったから、よかった」みたいな言葉を両親に話していましたが、わたしはひたすらその意味がわからなくて。けれど、この勇気さんは、本当にすごいと思いました。お金持ちなんだな、なんてことは思わなかったけど、こんな素敵なインテリアの家で暮らすこの人は、本当にすごくて、本当に素敵だと思いました。

 

「これがいい香りなんだ!これ、なに?」

「お香だよ。8番って香り」

 

なんとボーリングのピンだと思ったものは、中が空洞になっているお香立てだっのです。そのお香の袋を見せてもらったら、GONESH no.8と書かれていました。他にもno.4と書かれた袋のお香もあって、鼻につけてかいでみたら、とてもさわやかないい香りがしました。

 

「あ!ドーナツ!ミスド買ってきたの!」

 

昨日のコーラのお礼だよ、と言いながらミスドの箱をあけたら、勇気さんが「しょっぱいのばっか!」と笑うのです。え?だって朝だし…………と思っていたら、どうやら勇気さんは、しょっぱいパイはあまり得意じゃないらしいのです。根っからの甘党だとか。あ、そういえば昨日も甘いドーナツ選んでいた………そっか。甘いドーナツが多いからじゃなくて、甘いのが好きだからだったんだ………喜ぶ顔が見たかったのに………失敗しちゃった………

 

落ち込みましたが、それでも勇気さんはやさしかったから。一口もパイを食べてくれないのは少し気にはなりましたが、まぁ、苦手なのならしょうがないから………と気を取り直しながら、昨日のラウンドワンのネットカフェのようなフロアーでふたりでくっついて話していた時のように、笑顔でたくさんおしゃべりしていました。

 

そんなふたりきりの、素敵なインテリアに囲まれた中で、どちらともなく見つめ合って。どちらともなくキスをして。ゆっくり、やさしく、ふかふかの黒いカーペットに押し倒されて。このカーペット、本当にふかふか。フローリングに敷かれているのに、ちっとも身体が痛くない。部屋もいい香り。BGMも、心地良い、ギターのやさしい音色のカフェミュージック。そんな中で、はじめてこの人に抱かれました。わたしも躊躇うことなく、この人の性器を口にふくみました。ちっとも嫌じゃない。こんなこと、恋人とセックスする時も、あまりしてこなかったのに。しても、嫌だったのに。なんでこの人には、わたしはこんなにも抵抗を感じないのだろう。正直、あなたの家に行きたいです。というのは、この行為に対するOKの意思表示でもありました。加えて、わたしは昨日この人とはじめてデートをした時に、途中から「ふたりが笑い合って、一緒に暮らしている」という、結婚生活のビジョンが見えていたのです。ぐいっと引き寄せられてキスをされるその瞬間の直前に、そんなビジョンが脳裏に浮かんでいました。あ、わたしたち、結婚するな。って。

 

そして、棚の上に置いてあったコンドームをつけて、いよいよ挿れるよ、となった時に、わたしはようやく腰の爆弾のことを打ち明けました。自分で飛び降りた。腰の骨が折れて、そこに大きな金属ボルトがたくさん埋まってる。そっか。エッチはして大丈夫?うん。しちゃいけないとは、言われなかった。なら、やさしく動くから。そうして、ゆっくりと挿入され、やさしい律動の中で、わたしたちは愛を確かめ合いました。なんとなく、イクふりをしてしまいました。わたしはセックスでイッたことがありませんでした。自分で自分を慰める時にイク、という感覚は感じたことはありましたが、中で、イケないのです。でも。なんとなく、イクふりをしてしまいました。本当に申し訳ないことなのだけど。このあたりは、女の見栄なのでしょうか。わたしは、あなたとのセックスで、ちゃんとオーガズムを感じることが出来ます、という。そして、わたしは、ちゃんと避妊をしてもらったのは、予備校の彼の時以来でした。その予備校の彼の前につきあっていた人も、しぶしぶしてはくれるのだけど、必ず途中から、みんな「生がいい」って言う。いやだ、いやだ、わたしたちはまだ子育ては出来ない、と拒否しても、無理やり挿れてくる。そんな恋人ばかりだったので、余計に予備校の彼が恋しくて忘れられない、という面もありました。避妊をしてくれるのは、当時のわたしにとっては、当たり前ではなかったのです。

 

あなたの抱えていたもの。

そうして行為を終えて、壁に収納されていたベッドを広げ、またふたりでおしゃべりしていました。しちゃったね。ね、しちゃったね。嫌じゃないの?ちっとも嫌じゃない。そんな会話を交わす中で、

 

「まぁ、エッチ出来んくなったら、確かに俺とはうまくはいかんな」

 

と、そう勇気さんは言って。一瞬でわたしの表情が変わりました。サーっと冷めるような。なんだかこれを、この言葉を、受け止めきれなくて。あ、この人も、しっかり、男なんだ。女性はね、いついかなる時もセックスに応じられるわけじゃないんだよ。生理中だとかそういう意味じゃなくて。そんな気持ちに、自分の意志とは関係なく、なれない日だってあるんだよ。それをあなたは、あなたまで、理解してくれていないの。

 

悲しいのだけど、とても冷めた気持ちで上半身を上げ、

「エッチ出来ないと、うまくいかないなんて、そんなのいやだ。」

そう冷たく言い放ちました。もうお別れよ、だなんてことは思わないけど、その考えは、改めてちょうだい。そんな表情をしていました。

 

勇気さんも、少し慌てたのかもしれません。こんなこと言っちゃいけなかった、と、思ったのかもしれません。少し間をあけてから、あんな、俺がこんな考えなのには、理由があんねん。そう言いました。そうして、その理由を、話し始めました。

 

俺な、親父の顔知らないんだ。俺と弟は、おふくろに育てられた。まだ小さい時に離婚したらしいんだけど、なぜか離婚の慰謝料をもらわんかったらしくてな。親父はどこかの会社の社長だったらしいんだけど。そうしておふくろの地元の五島列島で育った。おふくろは夜の仕事もしてたんだけどな、途中で九州本土に家族で引っ越してきて。俺が中学生ん時な。なんか、もう、いっぺんに話すな?その俺が中学生の時に、どうしても家計が火の車だったらしく、俺と弟は施設に入ったんだ。その施設は本当に楽しくてな。ちっとも嫌な思い出じゃないんだけど、俺は、家族が一緒に暮らせないなんて、嫌だったんだ。だから高校は定時制を選んで、俺が働くから、って言って、弟も施設から出して、おふくろとまた家族3人で暮らし始めたんだ。でも広い家の審査なんて通らなくてな、ワンルームみたいなとこに3人で暮らしてたんだけど、それでも俺は家族は一緒に住むものだ、って思っていてな。朝から仕事に出かけて、夕方になったら学校行って、帰りにスーパー寄って、夜遅くに帰宅して、俺がご飯作ってな。たいしたもん作れなかったけど。お金なかったから。肉なしの皿うどんとかな。お米が必要な日は、弟に米炊かしといてな。でも肉がないから、味気ない、って言うんだ。お金ないから仕方ないやろ、って俺は言うんだけど。でも俺の稼いだ金、ほとんどおふくろがパチンコで使っちゃうんだ。いつの間にか、あいつ借金までしてな。ヤミ金みたいなとこから金借りて、それもパチンコに使うんだよ。ヤクザみたいな取り立て屋が電話かけてきたり、家のドア叩いたりしててな。さすがに俺も泣きながらコタツに頭突っ込んだりして、その中でウーッウーッって声押し殺して泣いてるんだけど。弟は「お兄ちゃんは悪くない、お兄ちゃんはがんばってる」って言ってくれるんだけどな。そんな中で、電話のベルの音さえ苦手になっちまってな。寝袋買って、公園で野宿するようになったんだよ。近くのスーパー銭湯に行って、そこで風呂入って、飯食って、野宿して、朝になったら仕事行って、学校行って。誰にも打ち明けなかったけどな。なにかおかしいと思った学校の先生に事情聞かれて、ちょっとだけ話したら、なんか大騒ぎなっちゃってな。俺はそれがすごい嫌で、なんでもありません、大丈夫です、って言ってな。それからもこの話は誰にもしてこなかった。今までの彼女にさえ。そんな野宿もさ、あんま嫌じゃないんだよ。寝袋だけどさ、誰も俺のことは邪魔しない、って、落ち着いたんだよな。夜空を見ながら、絶対ここから這い上がってやる、って思ってた。それから母親には自己破産させてな。ほとんど俺が手続きするんだけど。それから金貯めて、今の家に引っ越してきた。最初はなーなんもなくて。この備えつけの間接照明と、備えつけのラジオと、この備えつけのベッドしかなくてな。洗濯機もないから、1階のコインランドリーで洗濯して。そこから、ひとつひとつ、揃えてきたんだ。おかげで、今俺フリーターだけどさ。小学生の時の文集に、将来の夢、フリーターって書いたからかな。その時はフリーターってこんなイメージじゃなくて、「自由な人なんだ」って思っててな。でも、ここは俺のお城なんだ。誰も邪魔してこない、俺だけのお城。なんかうれしくてな。でもな、なんかな。なんかな、なんだか

 

ずっと、さみしかったんだよ………………

 

そう言って、勇気さんは、一筋の涙を、流しました。

 

今これを書いているわたしが、書いていて涙が止まらなくなるのに、勇気さんは話の途中では、一粒も涙をこぼすことなく、声も震えることなく、淡々と話していました。そして、さみしかったんだよ、と言った瞬間に、ようやく涙が一筋、頬につたいました。それまで、わたしの周りにも、中学を卒業してからすぐ働きに出た友達はいましたが、接点がなくなっていったので、その後の話は聞いたことはなかったし、借金で苦しんだことのある人はいなくて。一人暮らしをする際も、みんな生活に必要な家電や家具は買い揃えてから始めていました。だいたいが親に買ってもらったり、実家からお古として譲り受けたり。それが普通なのだと思っていました。それが当たり前なのだと思っていました。でも、そんなの、この人には、当たり前じゃなくて。母親の愛も、きっと存分には、もらえなくて。それでも、きっと、必ずここから這い上がる。その一心で、がんばってきたのでしょう。本当は、甘えたかったはずなのに。高校生なんて、まだ子どもなのに。そんな彼が、おそらく、わたしにはわからない感覚だけれど、恋人と身体で繋がる行為に、わたし以上に、人との繋がりを感じれたのかもしれません。その瞬間は、さみしくない。どこか、満たされる。男性の抱える性欲以上の、心の満たされる感覚を、覚えていたのかもしれません。

 

「勇ちゃん」

 

そう言って。こんなに思い出したくない話させて、ごめん。こんなに、話してくれてありがとう。そんなことすら、言ってはいけない気がして。そんな言葉では、この人の傷は癒せない気がして。

 

「大丈夫。わたしはここにいるよ」

 

それしか、言えなくて。大丈夫って言葉、その3文字全部に、人っていう字が入っているから。わたしはここにいるから。あなたは、1人じゃない。独りじゃない。そう、目の前で、一筋の涙以上の悲しみを必死にこらえて、それでも涙を流す、わたしより4歳年上の、身体はもう大人でも、きっと今はひとりの少年のこの人を、腕の中に引き寄せて、抱きしめました。

 

「なんでかな………俺、今まで悲しい映画とか観ても、涙も出んかったのに………」

 

きっとそれは、あなたの心が、あなたの心を守っていたのでしょう。悲しいという感情を、必要以上に感じなくさせていたのでしょう。あなたの自己防衛だったんだ。わたしにもそんな時期があった。わたしはどうしても涙は止められなくて、必死に胸をドンドン叩きながら、悲しくない!悲しくない!って、ベッドで布団にくるまりながら、必死に自分にそう言い聞かせていたけれど。あなたは、泣くことさえ、出来なかったんだ。涙は悲しみやストレスを、洗い流してくれるのに。ずっとそれを、たとえ恋人が出来ようと、ひとりきりで、今まで抱えていたんだ。

 

その日はその後に、一緒にお風呂に入ってから、近くのミニストップに行って、ソフトクリームを食べて。わたしはミニストップのソフトクリームを食べるのが、はじめてで。コンビニのカウンターフードは、中華まんしか食べたことなかったし、わたしが15歳の時にコンビニでバイトをしていた時は、カウンターフードは中華まんしかなかったから。こんなにコンビニのカウンターフードって美味しいんだ!と、感動しながら、ふたりで手を繋いで、近所のゲームセンターに行って、プリクラを撮って。そしたら、勇気さんがその食べかけのソフトクリームをわたしの顔に、まるでドリフの顔面ケーキのようにベチャっとつけてきて、びっくりした瞬間にプリクラのシャッターが切られて。もう!やだー!って言いながら、ふたりで笑っていて。そうして何枚も撮って。その中の1枚に、落書きで「大丈夫。わたしはここにいるよ」と、書きました。

 

そのゲームセンターから勇気さんの家に戻る途中、「さぁーて!俺の家はどっちでしょー?」と言う勇気さんに「こっちー!」と言いながら手を握って、わたしが手を引いて、一緒に勇気さんの家に戻りました。もう覚えたよ。あなたのおうちは、あそこ。あなたのお城は、あのマンションだよ。あなたが自分の力で手に入れた、あの素敵なインテリアの部屋だよ。今日はまだ泊まれないけど。門限があるから。でも、一緒に、帰ろう。

 

あなたが自分の孤独を、全部話してくれた日。

きっと、風の強い日を選んで

走ってきたんだね。

俺なら出来る、俺ならこの風も味方につけられる、って

ずっと自分を信じて、走ってきたんだね。

そんな中で

前の大きな失恋を乗り越えた先に、

わたしがいたんだね。

きっと、あなたは神様は信じていないでしょう。

でも。こうしてふたりが出会えたことには、きっと意味があるから。

もしかしたら、神様からのご褒美かもしれないから。

これからもたくさん、いじわるしてきてよ。

あとちょっとしたら、遠距離恋愛になるけど

ずっと、待ってるから。

わたしはここにいるよ。

ふたりの孤独が重なり合って、癒やされた気がした

2007年の4月28日でした。

 

 

はい、カット。みんな、おつかれ。

涙が止まらん監督。彼がこの世界で最も勇ましく、最も勇敢で、素敵な男性であるエピソードはもちろんこの先にもたくさん出てはきますし、それこそが彼が名前に恥じない勇者であるエピソードなのですが、もうこの時点で充分あなた勇者だから。今は元夫ですし、いくら今でも笑い合って話す間であるとはいえ、この先は彼とともに人生を歩むわけではありませんが、あなた誰よりもしあわせになってよ。絶対だよ。

 

ではわたしはひとりの食卓の夕飯の下ごしらえしてきます。さっきコンビニに行ったら、黒人の、おそらく土木工事現場のバイトをし始めた見習いさんらしき男性が、駐車場でトラックに乗り込もうとしてたら、締め出しくらってて。日本人の親方たちなのだろう方々が「お前ー!ちゃんとドアあけろー!出発できねーぞ!」って言いながら笑ってて。愛のあるいじりなのかはわたしにはわかりませんが、その黒人の男性は「まいったな」みたいな感じで笑いながら、外にいたわたしと目が合って。思わず手をふったんですよ。そうしたら「ありがとう」みたいな感じで手をふりかえしてくれて。トラックに乗り込んだその方に「がんばれ!」って、ガッツポーズしたら、「ありがとう、がんばる」みたいな笑顔で、ずっと手をふっていてくれて。わたしも手をふりながら、なんだか涙がこみ上げました。わたしはそれがいじめや差別なのかは分かりかねますが、どうしても留学生の方や実質移民の方々は、ほうっておけないんですよね。日本語学校でボランティアをしているからかもしれませんが、わたし自身も帰国子女で、帰国をした際にかなり苦労しましたし、言語や文化を飛び越えた先の「個人」というものに、まだ日本人は関心がうすかったり、疎かったりするように感じるのです。がんばれ。あなたなら、きっと、この国での暮らしも仕事も、楽しめるから。何か落ち込むことがあったら、またあのコンビニに来てよ。場所はすぐわかんないかもしれないけどさ。わたしよくそのコンビニ行くから。お互いにまた「会いたい」って思ったら、きっと会えるから。別に恋愛しましょう、じゃなくて。また会えたら、うれしいから。生きていれば、また会えるから。もしかしたら、あの駐車場でわたしがあなたを応援することさえ、わたしたちは空で約束してきたかもしれないよ。がんばれ!頑なに張るような「頑張る」じゃなくて、一緒にこの世界楽しんじゃおうぜ!

 

まったにー!今日はぶり大根ー♪

 

なんか監督、今日は真面目な話ばっかだったね。

調子狂うけど。まぁ、それが、あの人だから。

ぼくたちも楽しもう。

 

葉月ひろな

Twitter @hazukihirona

hazukihirona@gmail.com